2012年5月10日木曜日

「紙への道」紙



<内容>


 1. 紙とは

 
紙とは、「植物繊維その他の繊維を膠着させて製造したもの」で、さらに、広義には「素材として合成高分子物質を用いて製造した合成紙のほか、繊維状無機材料を配合した紙も含む」と日本工業規格(JIS P 0001)に定義づけされております。
 狭義的に、これを一般的な紙についてもう少し具体的にいえば、植物性単繊維(セルロース繊維)を水に分散させ、それを簀
(す)や網の上に均一な(薄い)層、いわゆるシート状を形成するように流出させ、からみ合わせて、さらに脱水したのちに、乾燥したものであり、この工程の中で薬品添加・塗布や加圧など種々の処理・加工を行って作られたものです。

 なお、「ペーパー」(英語:Paper)など欧米各国の紙の語源となった

有名なパピルス(Papyrus)は、エジプトのナイル河畔に生育するパピルス草(カミガヤツリ)と呼ばれる葦に似た植物です。
 パピルス紙は、紀元前3000〜2500年ころ、パピルス草の茎の外皮をはぎ、芯を長い薄片として縦横に並べて水をかけ、重しをかけて強く圧搾し、表面を石・象牙等で擦って、平滑にし、天日乾燥し、シート状にしたものです。
 植物繊維を
水に分散させ、絡み合わせるという紙の作り方でないため、パピルス紙は厳密にいえば紙ではありません。いわゆる、今でいう不織布の一種といえるもので、紙そのものではありません。

 このように、パピルス紙は、繊維分散液から作ったものないため、紙そのものでありませんが、真の紙の発祥の地は中国であり、およそ2100年前の前漢時代に大麻の繊維を使った紙が始まりで、その後、紀元2世紀の初め(西暦105年)の中国・後漢時代に、蔡倫という人が技術の改良を行い、今日の製紙技術の基礎を確立しました。これにより紙の改良者ないし製紙の普及者は蔡倫とされています。
 彼の造った紙は「蔡侯紙」と呼ばれ、原料として樹皮、麻、ぼろ布などを用い、これらを石臼で砕き、それに陶土や滑石粉などを混ぜて水の中に入れ、簀の上で漉く方法を採りましたが、このやり方は原理的には今日の紙漉き法

[@皮を剥く(調木) A煮る(蒸解) B叩く(叩解) C抄く(抄紙) D乾かす(乾燥)]とほとんど変わりがありません。

  (注) 繊維とは、細かい糸状になっているものをいい、その生成過程で分ければ天然繊維と化学(人造)繊維に大別され、それはさらに表のように分類されております(表 繊維の分類)

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 2. 紙の機能と用途 「紙」、その歴史は古い。そして、あまりに身近にあり過ぎてその貴重さが忘れがちになりやすいが、これまでに文化発展のために果たしてきた役割は大きい。新聞、印刷用紙などの情報媒体や包装・事務用品、家庭用紙…として、われわれの生活の中で、今日でもその役割と位置付けは大きいと考えます。
 また、「紙の消費は文化のバロメーター」とか「製紙および印刷事業は文明の源泉」ともいわれ、日常生活における紙の比重は大きく、わが国の国民総生産(GNP) と紙・板紙需要とは強い関わりを持ち、紙はわれわれの生活において、無くてはならない存在となっています。
 ところで、紙は大きく3つの基本機能を持ちます。
 すなわち、@情報を記録し、かつ保存できること、A物を包み保護すること、およびB液体を拭き取り、かつ吸い取ることですが、これらの機能を柱に、付加して幾つかの機能・用途開発がされてきており、その品種構成の多様化と機能化は広範囲になってきております(表 紙・板紙の機能と用途)
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 これに対し、科学技術の進歩により、他の領域からも新しい競合商品が登場してきていますが、このような中で、紙の優れた特徴、すなわち、軽くて薄いにもかかわらず風合が良く美しいこと、かつ一般的に白く、不透明な平面であるため取扱いが便利なこと、環境への害が極めて少ないことや保存性が良いこと、また、再生ができること、比較的安価でしかも容易に手に入ることなど、紙の持つ有利な機能・用途・汎用性により、日常生活における紙の重要性はこれからも変わらないと考えます。

 今後ともさらに永続し、伸展していくためには、資源と地球環境を大切にしていく中で紙の持つ諸特性に、絶え間ない技術を加味し、多様化する市場ニーズに対応して行くことが重要であると考えます。


 紙の次に何が来るのか。紙は電子メディアによって駆逐され、無くなるのではないかといわれております。
 しかし、お互いにメリットがあり、特徴があります。相互に補完しながら、棲み分けていくものと考えます。
 紙がこれからも生活に密着し、その原料対応と古紙回収・利用などで地球環境に優しい限り、かつ技術開発を続ける限り、将来とも紙の存続と進展は大いに可能であると考えます。


  3. 紙の分類・種類

 わが国では洋紙、板紙、和紙などの種類がありますが、今日、われわれが使っている紙のほとんどは洋紙(板紙含む)です。
 分類的には、用途上および統計上の必要性から経済産業省と日本製紙連合会により「紙・板紙の品種分類」が決められております。まず「紙」と厚い紙である「板紙」とに大分類され、さらに用途によって新聞巻取紙、印刷・情報用紙、包装用紙、衛生用紙、段ボール原紙、白板紙などに中分類されています。そして例えば、非塗工紙、上級印刷紙、印刷用紙Aと細かく分類されております(表 紙・板紙の品種分類)←クリックをどうぞ
 なお、和紙の製品・商品としては障子紙、書道用紙、ちり紙などが品種項目にありますが、生産比� �が少ないために「和紙」という区分はなく、分類的には、「紙」の中の雑種紙や衛生用紙などのー部に含まれてしまい、統計上はあまり表面には出てこないようです。

 これらの紙は最終的には、坪量(米坪)・紙厚、寸法別に、かつ平判・巻取別にきめ細かく分けられています。
 なお、「紙」といえば普通、洋紙と板紙を含めていうことが多いのですが、洋紙のみを指すことがあり、紛らわしいことがありますので、場合によっては、どちらであるか確認する必要があります。

 ところで、流通段階では、同一グレードであっても、製紙メーカー、銘柄によって、色相や風合いなどの品質に差があります。このため、同一グレードであってもメーカーが異なれば、混用されることはまれで、同一銘柄が指定されるか、万一、 メーカーが異なれば、仕分けして使用されるのが一般です。
 また、紙の種類は多く、それぞれが用途に応じた適性を付与されて作られておりますので、適性に応じて使用されれば問題ありませんが、意外な使われ方をされることもあります。このような場合には、うまくいくこともありますが、失敗するほうが多いので、それぞれの品種の位置づけと適性をよく理解をしておく必要があります。
 すなわち、「紙」(洋紙、板紙や和紙など含む)は、その用途・機能に応じそれぞれに適材適所があります。
 さらに、わが国の紙需要は経済・文化の発展とともに着実に伸びてきておりますが、日本古来の和紙が、大量生産可能な洋紙に押され激減していったように、紙に対する市場ニーズの変化や印刷技術の変化・向 上、情報媒体の変化などに対応して、増減という数量だけでなく、紙の種類・銘柄が消滅したり、品種構成に大きな変化が生ずることを知ることも重要です。

 
[注記]

  用語解説・・・板紙について

 紙とは、「洋紙、板紙、和紙」を総称していう場合と、「洋紙」のみをいう場合や「板紙」に対応する言葉として用いることがあります。
 ここで板紙について説明します。板紙とは、紙と板紙の区分には明確な定義がありませんが、紙との違いは主に米坪が大きく、紙厚が大きいことです。
 一般的には、米坪の大きいもの(190〜 900g/uくらい)、すなわち、厚い紙を板紙(ボード、paper board)といい、ボール紙ともいいます。板紙は段ボール原紙、紙器用板紙、建材原紙、紙管原紙、ワンプおよびその他板紙に分類されております。
 原料は木材化学パルプ(CP)、砕木パルプ(GP)、わらパルプ、古紙パルプなどで、これらを配合し板紙抄紙機で作られますが、厚手の紙のため一般的に3層以上、9層以下の多層抄き合わで製造されます。
 なお、板紙には非常にたくさんの古紙が使われている。その利用比率は、紙の約3割に対し、おおむね3倍のおよそ9割となっており、大部分が古紙でできているといえます。

 その特性は紙の硬さと、腰の強さです。板紙の用途は、大部分が箱・容器などの包装資材であり、その他に表紙、台紙、また厚みが� ��ることから建築資材などのー部としても使われております。

 4. 紙の歴史


 

「紙」、その歴史は古い。
 紙は中国の前漢時代
(紀元前2世紀)に発明されました。

 紙は中国の四大発明(火薬・羅針盤・印刷術)の一つであり、長い間、「後漢時代の元興元年(西暦105年)に蔡倫が発明した」とされていましたが、実はそれよりもおよそ200年以上も前に、同じ中国で作られていたことが判りました。
 近年(1933年〜)の発掘によって前漢時代の紙が発見され、紀元前2世紀ごろにはすでに紙は存在していたという説が有力になり、紙は紀元2世紀初めの後漢時代に発明されたというそれまでの定説が覆されたわけです。

 当時の原料は麻(大麻、苧麻)ですが、それ以前に、ものを書く材料として、石、粘土などの他に動物の皮や骨、樹木の皮、木板、竹、布、絹などが使用されました。こうした材料の中で、今日の紙に最も近いものは紀元前3000〜2500年ころ、エジプトのナイル河畔に生育するパピルス草と呼ばれる葦に似た植物の繊維から作られ、「紙」(英語:Paper,ドイツ語:Papier…など)の語源となったパピルス(Papyrus)です。これはパピルス草の茎の外皮をはぎ、芯を長い薄片として平行に並べ、その上に直角・平行に薄片を重ね、水をかけ数時間圧搾、表面を石・象牙等で擦って、平滑にし天日乾燥したシート状で、いわゆる不織布の一種といえるもので、繊維分散液から絡み合わせるという紙の作り方でないため、紙そのものではありませんでした。

 真の紙の発祥の地は中国であり、およそ2100年前の前漢時代に大麻の繊維を使った紙が始まりで、その後、紀元2世紀の初め(西暦105年)の中国・後漢時代に、蔡倫という人が技術の改良を行い、今日の製紙技術の基礎を確立しました。これにより紙の改良者ないし製紙の普及者は蔡倫とされています。彼の造った紙は「蔡侯紙」と呼ばれ、原料として樹皮、麻、ぼろ布などを用い、これらを石臼で砕き、それに陶土や滑石粉などを混ぜて水の中に入れ簀の上で漉く方法を採りましたが、このやり方は原理的には今日の紙漉き法[@皮を剥く(調木) A煮る(蒸解) B叩く(叩解) C抄く(抄紙) D乾かす(乾燥)]とほとんど変わりがありません。

 この中国の製紙技術は、8世紀に今日でいう、いわゆる「シルクロード(絹の道)」を通って西進し、中央アジアを経て10〜16世紀にわたってヨーロッパ諸国に、17世紀にはアメリカに、19世紀初頭にはカナダに紹介され、洋紙として大きく発展していきます。
 (注)FAQ (1)「紙」という漢字の語源はなんですか、また、テーマ「和紙」の和紙の歴史(本文)および表 紙の歴史ご参照くださいそれぞれクリックをどうぞ

 それではもう少し、わが国で「和紙」となり「洋紙」となった「紙」について、その発祥から伝播まで「紙の道(ペーパーロード)」を辿(たど)ってみます。

  「紙の道」…ペーパーロードを辿る

 人類の歴史の中で、中国で最初に発明された紙は、当時の都からシルクロード(絹の道)によって西進して西域からヨーロッパへと伝播します。

 それまでの西方諸国では、パピルスや羊皮紙が使われていました。パピルスは、古代エジプトで紀元前3000年頃から使われていましたし、羊皮紙も古代よりパピルスとならんで使われた書写材料で、羊の皮を薄く剥いだものですが、その他に山羊、鹿、豚、牛などの皮も使われました。これらの古代の書写材料は、東方からの紙の伝播によって次第に使われなくなっていきます。

 シルクロードを通って、紙も次第に西方へと伝播していき、中央アジアや西アジアのペルシャ人、ソクド人、大夏人たちも、中国の紙を知り、これを使っていましたが、8世紀中ごろには製紙技術がアラビア(大食、タージー)に伝わる発端となった事件が発生しました。
 『新唐書』によると、唐の玄宗は西暦751(天宝10)年、大食軍(サラセン軍)と中央アジアのタラスで戦い、唐軍が破れました。このとき捕らえられた唐の捕虜の中に、製紙の工人が含まれており、大食の将軍は彼等を使って都のサマルカンドに初めて製紙工場を作りました(757年)。そこで原料として桑、苧麻(ちょま)、月桂樹などを使って、いわゆる「サマルカンド紙」が生産されたわけです。

 サマルカンドに始まった製紙工場は、次いで793年にバクダード、ダマスクスへと広がり、900年前後にはエジプトのカイロにも工場が誕生していきます。

 すなわち、サマルカンド紙の名がペルシアやスペインにまで知れ渡ると、ペルシア王が対抗意識を燃やして、795年頃、バクダードに中国の製紙技術工を招いて製紙事業を始めました。ときの国王は有名な『アラビアン・ナイト』にカリフとしてしばしば登場するハルーン・アル・ラシード王です。彼は、次いでアラビアの東海岸、シリアのダマスカスにも製紙工場を新設しました。

 紙の技術はついに「パピルス」発祥の地であるエジプトへ伝わっていきます。エジプトには9世紀に、紙がバクダードやサマルカンドから入り、パピルスの使用はすでに少なくなっていましたが、900年頃、製紙技術か伝わり、カイロを中心に多くの製紙工場ができ、紙が造られるようになっていました。そして10世紀半ばには紙はエジプトでもすっかりパピルスに取って代ってしまいます。
 
 アラブ商人の通商によって、紙はさらに西方へと進んでいきます。
 1040年にアフリカのリビアへ伝わり、1100年にはモロッコの首都カサブランカに近いフェズに達し、1150年頃には、モロッコの原住民であるムーア人がスペインを占領し、同時にヨーロッパ最初の製紙工場をサティバ� ��造りました。ここにイスラム文化の黄金時代が現出していきます。
 そして1189年に、製紙技術はとうとうスペインとフランス両国の国境ピレネー山脈を越え、フランスのエローに製紙工場ができました。当時、幾度となく繰り返された十字軍の遠征によって、キリスト教国にも製紙が知られるようになり、キリスト教徒によって初めてフランスに製紙工場が誕生したわけです。

 一方、製紙技術は別のルートを辿って、イタリアに入っていきました。
 1276年に中部地方のアンコーナに近いファブリアーノに製紙工場が出来ましたが、伝わった経路については二つの説があります。一つは十字軍に従軍したイタリア人が小アジアから技術導入したもの。もうひとつはアラビア人がシチリア島を占領していたころに製紙技術を導入したとするものです。

 さらにアルプスを越えて1391年にはドイツへ、ドーヴァー海峡を渡ってイングランドに伝わったのが1494年です。

 ドイツ人グーテンベルク(1398〜1468年)が中国の影響を受けながらも、独自の活版印刷術を発明したのは1450年頃です。彼の印刷したものは「聖書」ですが、『グーテンベルクの聖書』は羊皮(パーチメント)に印刷された数少ない初期の書物ですが、その1冊に300匹分の羊皮が必要でした。
 印刷術が実用化されるためには、量があり、安価な材料がなければなりませんでしたが、それに応えたのが「紙」そのものでした。

 その後、製紙技術がヨーロッパ諸国を経て何時頃、どのように伝わっていったのか、もう少し見て行きましょう。

 1356年 オーストリアのレースドルフに製紙工場誕生。
 1390年 ドイツのニュールンベルクのドイツ最初の手すき製紙工場創業。
 1405年 ベルギーのユイにスペイン人ジョンが同国最初の製紙工場建設。
 1411年 スイスのマーレに製紙工場誕生。
 1420〜70年 ザミラビン王がサマルカンドからインドのカンミールに製紙技術伝播。
 1491年 ポーランドのプラドニック・チェルオニイ(クラクフ付近)に製紙工場誕生。
 1498年 イギリスのハートフォードの城内に同国最初の製紙工場誕生。
 1532年 スウェーデンのモタラ・ストレムにグスタフ・ワサが製紙工場建設� ��
 1540年 デンマークに最初の製紙工場誕生。
 1540〜50年 スイスにボロ布を原料とした製紙業誕生。
 1546年 ハンガリーに製紙工場誕生。
 1576年 ロシアに初めて製紙業誕生。
 1586年 オランダのドルドレに2つの製紙工場建設。
 1690年 アメリカのフィラデルフィアにオランダ人ウィリアム・リッティングハウスらが
 同国最初の製紙工場建設。
 1803年 カナダに製紙業誕生。
 1874(明治7)年 わが国に欧米から洋紙技術渡来、操業開始。

 このように中国の紙がシルクロードを通って長い年月を経て欧米に伝わり、さらに遅く、わが国に洋紙技術が伝わり、洋紙生産が初めて行われたのは19世紀後半の1874(明治7)年のことです。
 そして、もとは同じ中国の紙で、伝播し日本で改良され育った和紙と出会うこととなりますが、次第に洋紙(西洋紙)として発展、定着して行くことになります[(和紙の歴史 参照)←クリックをどうぞ
]
 なお、当時の原料は木綿ボロでしたが、1889(明治22)年に日本で初めて木材からのパルプ製造に成功し、洋紙発展への礎となりました。そして、1912(明治45)年ごろには、洋紙の生産と消費がわが国で生まれ 育った和紙と肩をならべ、それ以降、和紙を追い越し洋紙の時代となって行きます。


鋭い膣子宮の痛み

 なお、ヨーロッパにおいて19世紀初めに抄紙機が発明され、従来の手漉き法に比べ著しく製造能力が高められたこと、19世紀後半には木材パルプ製造法が発明され、それまでの布ボロから量産可能な木材に原料の転換が行われたこと、また、印刷技術の発展により紙需要が拡大していったことなどにより、製紙工業が飛躍的に伸びていきました。

 紙2000年の歴史の中で、発展のもとになったのは上述のように、木材パルプの出現と抄紙機(手漉きから機械漉きへ)の発明ですが、これらによりマスコミへの対応、量産化、低廉化、品質向上などが可能になりました。そして今日まで、抄紙機の進展すなわち、スピードアップ、広幅化、効率化、省力化や品質改 善、原料の変化、用紙の多様化(品種・銘柄の増加、酸性紙から中性紙へ、再生紙の拡大など)、環境保護、森林保護などのニーズに対応してきました。今後ともさらに発展し、生き延びていくためには変わらない対応と技術開発が必須であると考えます。

 ところで紙の次には何が来るのでしょうか。ことあるたびによく話題になります。
 紙は電子メディアによって駆逐され、無くなるのではないかといわれます。しかし、お互いにメリットがあり、特徴を持っております。お互いに補完しながら、棲み分けていくものと考えます。

 紙がこれからも生活に密着し、その原料対応と古紙回収・利用などで地球環境にやさしい限り、かつ技術開発を続ける限り、将来とも紙の存続と進展は大いに可能性があります。

 なお、表に紙の歴史を掲げました。ご参照ください(表 紙の歴史)クリックをどうぞ

 5.紙のできるまで  パルプ化工程 

 紙製造には、多くの原材料・薬品や抄紙用具、設備が使われていますが、紙の種類・品種により、品質スペックが違うため、使われる原材料・薬品などの種類、配合や製造条件などがそれぞれ異なります。以下、一般論として紙の製造について工程順に簡単に説明します。

  1.パルプ化工程

 紙の種類はたくさんありますが、現在、世界の大部分の紙、およそ90%は木材系の植物繊維を原料としています。わが国では、99.8%とほとんどが木材系で、他に非木材系の植物繊維が使用されています。
 したがって、ここでは木材から作られるパルプおよび紙を中心に紹介して行きます。

 (1)木材

 紙は、木材、主に間伐材などの小径木、製材廃材、合板工場・家具工場の廃材、パレット・包装箱・住宅などの解体材や植林材などの原料をチップ(木片)にし、パルプ化工程を経てパルプを作ります。
 ところで、木材からパルプを得るパルプ化工程は、「調木工程」(剥皮、チッピングなど)→「蒸解工程」→「洗浄・精選・脱水工程」→「漂白工程」から成り立っています。
 こうして得られたパルプは、一方、古紙から作った古紙パルプを必要に応じて配合して、紙料調成工程、抄紙工程、(塗工紙・加工紙の場合は)塗工・加工工程を通り、さらに仕上工程を経て紙は出来上がります。

 換言すれば、紙製造の基本は、「原木・調木」→「パルピング(蒸解)」→「叩解」→「抄紙」(乾燥)→(「塗工・加工」(乾燥))→「仕上げ」であり、昔から行われている紙漉きの原理[@皮を剥く A煮る B叩く C抄く D乾かす]は、現代でも引き継がれ基本的には変わっていません。

 木材についてもう少し説明します。

 木材の主成分はセルロース(繊維素)ですが、木材、古紙などの繊維原料を機械的および化学的に処理して繊維を分離し、パルプを作ることをパルプ化といい、そのパルプが紙の原料となります。
 紙・パルプの原料である木材は、針葉樹広葉樹に分類されます。

 その木材組織は、種々の細胞の集合体ですが 、その主な細胞は仮道管、木繊維、道管(ベッセル)、柔細胞で形成されていますが、樹種により差があり、針葉樹では一般に道管と木繊維はなく、仮道管がほとんどで重要な要素をしています。また、広葉樹には仮道管はなく(樹種により少量存在)、道管と木繊維が重要な役目をしています。
 なお、紙パルプ用では、そのうちの仮道管、木繊維のような細長い細胞を便宜上、繊維と呼んでいます。

 また、木材組織は繊維と繊維の間を細胞間層(大部分がリグニンで構成)が膠着し維持されているため、このような組織構造を持つ木材から繊維を分離し、パルプを得るには、この主として接着剤の役目をしているリグニンからなる細胞間層の膠着力を何らかの方法で破壊することが必要になるわけです。
 その方法として、 機械的処理による方法(熱、柔軟化剤処理を含む)と化学的処理による方法があり、これらの組み合わせにより各種のパルプ化法ができます。

 (2)パルプ

  ここでパルプについて触れます。

 パルプとは、木材その他の植物を機械的、化学的、あるいはその組み合わせによる方法で処理してセルロース繊維を抽出したものです。紙、レーヨン、セロハンなどの主原料として使われています。
 分類は原料別、用途別、製造法によって行われております。

 原料別にはリンターパルプ、ぼろパルプ、竹パルプ、エスパルトパルプ、バガス(サトウキビかす)パルプ、麻パルプ、わらパルプや和紙の原料である楮・三椏・雁皮の靱皮(じんぴ)繊維パルプなどの非木材パルプがあります。
 しかし、量的に多く、パルプの最も重要な原料は木材であり、針葉樹Nadelholz(ドイツ語)から作ったパルプが針葉樹パルプ、広葉樹 Laubholz(ドイツ語)からのものが広葉樹パルプで、わが国では、それぞれ NパルプLパルプといいます。

 用途によって紙やノンウーブンのように繊維形態をとったまま利用して使う製紙パルプ(paper pulp) と、ビスコースレーヨン・セロハン・酢酸セルロースのように再生セルロースやセルロース誘導体を作るために用いられる、セルロース純度の高い溶解パルプ(dissolving pulp)の二つに分類されており、圧倒的に多いのは製紙用です
 また、製造方法によって、機械パルプ(MP)の一つとして砕木パルプ(GP)や、亜硫酸パルプ(SP)・ソーダパルプ(AP)・クラフトパルプ(KP)などの化学パルプ(CP)、その中間的な機械的・化学的パルプとしてのケミグランドパルプ(CGP) ・セミケミカルパルプ(SCP) 、それに古紙から作った古紙パルプなどがあります。

 なお、明治23(1890)年に初めて製造された砕木パルプ(GP:Ground Pulp)には、白くて、軟質で摩砕しやすい針葉樹(N、ソフトウッド)が用いられました。   

 また、わが国で広葉樹が活発に製紙用に使われ始めたのは戦後のことです。従来から行われていたパルプ化法では、硬質で樹脂分の多い広葉樹(L、ハードウッド)はうまく処理できなかったことが、使われなかった大きな理由ですが、パルプ化法と漂白法の技術進歩により広葉樹も使用されるようになり、今では製紙原料として重要な位置づけにあります。
 広葉樹の使用比率は徐々に高まり、現在では、55〜60%レベルに達しています。かつて短繊維(1mm前後、針葉樹は2〜4mm程度)のために抄紙性と紙力に難点がありました広葉樹パルプも、紙製品の良好な地合、平滑性、不透明性などの点で好まれて使われています。

 木材組織から繊維を損傷せずに成るべく完全な形で分離するためには、機械的処理をできる限り軽くして化学的に脱リグニンすることが望ましく、機械パルプからセミケミカルパルプ(半化学的パルプ)、化学パルプと次第に脱リグニン化が進むほどパルプ品質(特に強度、白色度、退色性)は良好となります。しかし、逆に脱リグニン化を進めるほど、一定量の木材から得られるパルプの量、すなわちパルプ歩留りが減るためコスト高になります。

 現在は針葉樹、広葉樹を問わず広い範囲の樹種からパルプを製造することができ、強度の高いパルプが得られることから、クラフト法によるパルプ(KP)が主流になっており化学パルプの中で、およそ98%を占め製紙用パルプ全体でも約80%に相当する位置づけにあります。

 クラフトパルプは、「蒸解工程」で苛性ソーダと硫化ナトリウムを主成分とする薬液をチップに加え、約170℃で2時間ぐらい加熱して、中間層のリグニンを選択的に溶出して繊維を取り出しますが、有用なセルロースおよびヘミセルロースも一部、溶出するのは避けられません。

 また、「漂白工程」では、できる限り繊維を傷めないで、リグニンを分解して漂白効果を上げるために何種類もの漂白剤・薬品で処理する方法を多段漂白といいますが、クラフトパルプ法では塩素(C)、アルカリ抽出(E)、次亜塩素酸塩(H)ないし二酸化塩素(D)、アルカリ(E)、二酸化塩素(D)と5段漂白が常法として多く採用されていましたが、最近では環境問題(ダイオキシン)から塩素使用を削減する酸素漂白法、さらに塩素(Cl2)を用いない漂白法[ECF(Elementary Chlorine Free 無塩素漂白法…二酸化塩素ClO2は使用) 、TCF(Totally Chlorine Free 完全無塩素漂白法)]として酸素(O)や過酸化水素(P)、オゾン(Z)を使用する方法が開発、採用され趨勢になってきております。

 パルプは単独で使用されたり� �作ろうとする紙の性質・目的に応じて何種類かのパルプを組み合わせて用いられることもあります。

 例えば、印刷用紙には広葉樹晒クラフトパルプ(針葉樹晒クラフトパルプも一部使用)、新聞用紙には機械パルプ主体、セメント・米・肥料など重量物の包装袋用には針葉樹の未晒クラフトパルプという具合に、品質、用途、経済性などを考慮して適性に使用されています。

 参考までに、次にチップおよびパルプの写真などを示します。


 [注]チップの補足説明
チップ
(chip)
 一般に木材を小片にしたものを(木材)チップといい、パルプ、パーティクルボード、ファイバーボード製造などの原料として用いられす。通常その大きさは、繊維方向の長さ15〜35mm、幅25mm前後、厚さ4mm程度です。
 チップとは、細片、薄片の意で、パルプの原料とする木材の小片をいいます。英語では「chip」です。ポテトチップやゴルフで、アプローチショットした球がホールに入ることをいうチップ・イン【chip in】のチップです。
 「チップをはずむ」のチップは、こころづけ、祝儀の意で、英語では「tip」です。野球で、球が打者のバットにかすることをいうファウル・チップはこちらです。
  
 (つづく)

 

5.紙のできるまで(つづき) 紙化工程 (抄紙機仕上工程)

 
2.紙化工程
 
次に「紙化工程」ですが、紙化工程は、「原料(紙料)調成工程」と「抄紙工程」とから構成されております。

 2.1 原料調成工程

 「原料調成工程」は、抄紙に用いられるパルプ原料や薬品を最終的に調整・配合して、抄紙機(ペーパーマシン)に送り出す直前の工程です。機能的には、@パルプの受入れ、Aパルプの叩解、Bパルプの配合、C填料・サイズ剤・染料等の薬品添加、D損紙の処理、E白水回収、F除塵・脱気とともに、原料濃度やpHの調節などを行い、紙の基本品質が決定される重要な工程です。その主な機能について説明します。

 (1)叩 解

 叩解(こうかい)とは、文字通り叩き解すということで、水の存在下でパルプ繊維を機械的に叩き、磨砕することです。繊維をよく離解し、切断・水和・膨潤・絡み合いを行ない、かつ適当な長さに揃えるための機械的処理設備を叩解機といい、昔はビーターと呼ばれる機械で行いましたが、現在では、普通、リファイナーと呼ばれており、コニカルリファイナー、ディスクリファイナーなどが代表的なものです。叩解の状態はリファイナーの種類、構造、歯の形状、処理条件(温度、圧力、回転数)などにより決まり、抄紙機上での紙層形成や紙の品質に重要な影響を与えます。

 パルプ工程で得られたままのパルプ(未叩解パルプ)から作った紙は、フワフワした感じで毛羽立ちが多く、強度が非常に弱いものとなります。このような欠点をなくすために、機械処理を行い叩解します。パルプ繊維をリファイナーによって機械的に磨砕して擦り潰すと膨潤し、フィブリル化(繊維を枝状に分岐すること)して比表面積が増し、抄紙機上で絡み合って水素結合を起しやすい原料となります。また、繊維は切断を受け、繊維長が短くなり適当な長さに揃い、地合の良い強い紙を得ることができます。

 叩解による紙の特性の変化は、叩解が進むにつれて紙の緊度が増し、引き締まった紙質となり、破裂強さ、耐折強さが増加します。一方、引裂き強さや不透明度は一般的に低下します。

 ところで、叩解機の種類と叩解条件の選択によって繊維の切断がより多く起こる場合と、枝状化や膨潤が主として起こる場合があります。前者を遊離状叩解、後者を粘状叩解と呼び、一般に、遊離状叩解は紙の強度が劣るために粘状叩解が好まれますが、紙の地合や不透明度に対する要求から、あえて遊離状叩解が行われることがあります。逆に粘状叩解は紙質を緻密にし強度が向上しますが、不透明度は低下する傾向になります。

 なお、叩解の程度は叩解度あるいは濾水度(フリーネス)で表します。一般には、フリーネス単位ml、以前はcc[カナディアン・フリーネス・スタンダード(C.F.S)]で表示され、叩解が進むにつれてパルプの水切れが悪くなり、濾水度(フリーネスml)は低くなります。未叩解パルプのフリーネスは、700ml前後。

 (2)パルプ配合

 単独、あるいは異なるパルプ(化学パルプ・機械パルプ・古紙パルプ・非木材パルプなど)を数種類、紙に要求される品質を得るために配合します。例えば、上質紙などの印刷用紙には、地合が良く、良い印刷適性を与える広葉樹パルプ(LBKP)を主体に配合し、強度が要求される包装用紙の場合には、強度特性の良い針葉樹パルプ(NBKP)を100%ないしは主体に配合します。

 (3)薬品添加

 さらに、紙に要求される様々な性質を付与し目的の品質を得るために、原料パルプに各種の薬品を添加・配合します。
 例えば、
填料は、不透明度、白色度、平滑度、インキ吸収性などを向上させる目的で添加され、クレー(白土)、タルク(滑石)などが多く用いられていますが、近年は中性紙の増大で炭酸カルシウムの使用が増えてきています。筆記・印刷用紙には普通 5〜15重量%の填料が配合されており、中には20%以上のものもありますが、填料の増量は特に紙の不透明度は向上しますが、表面強度、紙力は低下傾向となります。
 なお、
二酸化チタンは高価ですが、高不透明度を与えるために薄紙などで高い不透明度が要求される紙(特殊紙など)に使われることがあります。

 また、紙はもともと多孔質で吸水性に富んでいますので、印刷・筆記用紙のインキの滲みを防いだり、耐水性を付与する必要があります。この処理をサイジング、このために添加する薬品をサイズ剤といい、以前から主としてロジン(松脂)およびその定着剤として硫酸バンド(強酸性化学物質。硫酸アルミニウム、アラムともいう)が用いられていましたが、中性紙の普及で中性サイズ剤が使用されています中性紙とは 参照←クリ� ��クをどうぞ

   ■その他の薬品

 その他の薬品として、歩留まり向上剤、紙力向上剤、スライムコントロール剤(微生物などの殺菌用)、消泡剤、染料などがそれぞれの目的に応じて添加されております。

  2.2 抄紙工程

 「抄紙工程」は、いわゆる紙を抄く(漉く)ところで、大部分が機械抄きです。本工程は抄紙機(ペーパーマシン)そのもので、ー般に次の8パート(ワインダー含む)で構成されています

  (1)ストックインレット(紙料流出部)
  (2)ワイヤーパート(脱水部)       
  (3)プレスパート(圧搾・搾水部) ・・・[注](1)〜(3)をウェットパート(ウェットエンド)と総称
  (4)ドライヤーパート(乾燥部)
  (5)サイズプレスパート(ゲートロールコーター含む)
  (6)カレンダー(光沢部)
  (7)リールパート(巻取枠替え部)
  (8)ワインダー

 なお、抄紙機の種類は、ワイヤーパートの型式によって、長網式と円網式(丸網式)に、また、ドライヤーパートの型式によって多筒式とヤンキー式に大別されますが、実際にはこれらの変形や2種類以上の組み合わせ(コンビネーション)のものもあります。


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 叩解、薬品配合の終わった紙料は濃度0.5〜1%前後(水分99.599%程度)希釈、調整されストックインレットからワイヤーパートへ噴出され、ワイヤー上で走行しながら、水はワイヤー下に流出・脱水、さらに吸引・脱水されて、紙層を形成していきます。
 ワイヤーパートを出たところで
20%程度の紙料濃度(水分80%程度)となり、次のプレスパートで紙匹は、プレスロールとフェルトとの間で圧搾・脱水されて、一般的に水分53〜60%(濃度47〜40%)ぐらいに、さらにドライヤーパートで湿紙の水分が5〜10%に まで乾燥され紙となります
 また、カレンダーパートでは平滑性を良くし、艶を出すために鉄製ロールの間を数段(4〜8段)、加圧通紙、その後、リールパートで所定の長さに巻き取られ枠替えし、リールスタンドへ移します。この段階で上質紙などの非塗工紙はできあがります。

 なお、一般的にドライヤーパートの中間部に、紙の表面強度を上げたり、水やインキに対する浸透性をコントロールするために表面処理を行うサイズプレスが設置されております。

 以下それぞれの工程について概記します。

工  程 説  明
(1)ストックインレット
(紙料流出部)
(stock inlet)
調成からの原料は脱気除塵後、ファンポンプと呼ばれる流量が変っても圧力変化の少ないポンプでストックインレットに送られる。
ストックインレットの機能は、抄紙機のワイヤー全幅に、均一でフロック(小さな塊)がなく、流れ縞を生じないように
繊維をよく分散した原料を適正な濃度、速度、角度でワイヤー上に供給することである。このために原料濃度は0.5〜1%前後とできる限り低く設定されている。
(2)ワイヤーパート
(脱水部)
(wire part)

抄紙機の型式はワイヤーパートの構造の差から、長網抄紙機(フォードリニアマシン)のほかに円網抄紙機や各種のフォーマー(代表例はツインワイヤーフォーマーでダブルワイヤーフォーマーともいう)がある。

■長網式抄紙機(Fourdrinier paper machine)
1枚の回転するエンドレスの長いワイヤー(すき網)を持つ型式の抄紙機を長網式抄紙機というが、ワイヤーパートは原料を脱水し紙層を形成させるところである。紙料はワイヤー上を走行し、初めはテーブルロールやフォイルなどの脱水パーツで、また脱水が進んでからはサクションボックス、クーチロールなどの真空ポンプを用いた脱水装置によって20%前後の水分を脱水し、次のプレスパートに送る
ワイヤーは以前は青銅製(ブロンズワイヤー)であったが、現在ではほとんどプラスチック製となっている(ワイヤー目の大きさは一重織りブロンズワイヤーで70メッシュ相当)。長網式抄紙機は、現在最も多く用いられている抄紙機であるが、問題点は、下側からだけ脱水されるために表裏差を生ずることで、高速ではそれが特に著しくなる。また、高速になると空気抵抗でワイヤ一上の原料表面が乱れるため、速度は最大 900m/分程度に抑えられる。

■ツインワイヤー式抄紙機(twin wire paper machine)
ツインワイヤー式抄紙機は、上記の長網式抄紙機の欠点(紙の表裏差、高速化) を解消するため開発されたもので、ギャップフォーマーとハイブリッドフォーマーに分類される。
 
・ギャップフォーマー
原料は2枚のワイヤーに挟まれて走行し、両側にほぼ均等に脱水するため、長網式と比べて、紙の表裏差が少なく、地合が良い。高速抄紙が可能で、現在、新聞用紙やティシュ用の薄物高速抄紙機(1800m/分) として多く用いられている。

 ・ハイブリッドフォーマー
オントップワイヤーフォーマーとも呼ばれているが、従来の長網式ワイヤーの途中または最後部の上にもう1つのワイヤー(トップワイヤー)を載せて、その部分で上下両方に脱水する型式である。
いわば長網の一部をツインワイヤー化したもので、ワイヤー上の留まりや紙の地合は良くなり、抄速はギャップフォーマー式ほど速くはないが1,300 m/分程度にすることができる。現在、印刷用紙や塗工原紙用抄紙機として用いられている。

■円網式抄紙機(cylinder paper machine)
円網式抄紙機は1809年に英国のディッキンソンによって発明されたもので、その構造は抄槽の中で円網を回転させ、それによって円網上に生じた紙料層をクーチロールでフェルト上に吸いつけていくものである。
抄速は遅いが薄物抄造に適し、純白ロールや衛生用紙(ティシュ)などの製造に用いられている。また、円網を多数ならべて、それらの原料を順次吸いつけていくと多層に抄き合わせた紙を作ることができ、古くから板紙用抄紙機として用いられてきた。
なお、最近は高速化のニーズから、すき網部に短いワイヤーを使った短網式のものや長網上に複数のワイヤーを載せたものが開発され、さらには円網、短網、長網の組み合わせたコンビネーション抄紙機が実用化し、紙の種類や要求に応じて使われている。

(3)プレスパート
(圧搾・搾水部)
(press part)
 
ワイヤーパートから出てきた80%前後の水分を持った湿紙を、数組のロールとフェルト(毛布)を介して、機械的に圧搾脱水するとともに、ワイヤーマークなどを減らし紙質を向上するためのセクションである。
繊維は保水性が高いため、プレスパートでの機械的脱水には限界があるが、湿紙をフェルトに載せて数組(3〜4組)のプレスロールの間を通して圧搾し53〜60%の水分率になるまで脱水する。
プレスロールには表面を研磨し滑らかにしたプレーンロール(ストーンロール…花崗岩)と、プレーンロールだけでは脱水が不十分なため、表面に円周方向の溝を付けたグルーブドロール(溝付きゴム被覆ロール)や、ロール内部に吸引箱(サクションボックス)を持ち、水分を吸引するために表面に穴が開けてある真空サクションロールなどがあ� �。実際にはそれら組合わせで使用される。

(4)ドライヤーパート(乾燥部)
(dryer part)

多筒式ドライヤーとヤンキードライヤーの形式がある。
■多筒式ドライヤー
プレスパートを出た湿紙はカンバスで保持して数十本のドライヤー表面に接触させ、水分を蒸発させて5〜10%の製品水分まで乾燥する。
ドライヤーは直径1.2〜l.8 mの鋳鉄製シリンダーで、低圧の蒸気を吹き込み、凝縮水を排出する構造になっている。効率良く乾燥するため、ドライヤーパートは密閉フードを付けることが多く、給気は排気と熱交換して供給しフード内の温度を高めている。また湿った空気の溜りやすいポケット部には別に熱風を吹き込み、換気と乾燥の促進を図っている。

■ヤンキードライヤー(Yankee dryer)
ティシュや片艶包装紙は、ヤンキードライヤーと呼ばれる直径 3〜 5.5mで表面が鏡面仕上げされた1本のドライヤーで乾燥が行われるので、このドライヤーを持つ抄紙機はヤンキー抄紙機(Yankee paper machine)という。
プレス工程を出た湿紙は、ヤンキードライヤーに張りつけて乾燥させるので、片面だけ艶のついた片艶紙になる。また、ティシュの場合はクレーピングドクターで紙を掻き取るので、20〜30%のクレープのついた紙となる。

(5)サイズプレス
パート(ゲートロールコーター含む)
(size press)

ドライヤーパートの中間部に設置されている。サイズプレスは、紙に表面強度や耐水性を付与する目的で、ドライヤ一乾燥後の紙面に澱粉などの溶液を塗布する装置である。印刷のオフセット化が進につれて普及した。
サイズプレスには、2ロールタイプが多いが、抄紙機の高速化にともなう、ロールポンド部でサイズ塗布液が飛び跳ね、いわゆる沸騰状になるボイリング現象が著しくなるなどの問題が生ずるため、近年、ゲートロール型やロッドメタリングタイプが採用されるようになった。

■2ロールタイプ
2本のゴムロールの間を紙を通し形成されるニップ部に塗布液(サイズ液)を供給し、ポンドと呼ばれる� ��液溜りを作り、いわゆるドブ漬けすることによって紙の両面にサイズ液を塗布する表面サイジング装置である。
液濃度は3〜6%と低い。型式には垂直型(バーチカル型)、水平型(ホリゾンタル型)および傾斜型(インクラインド型)があり、主流は傾斜型である。サイズプレスは塗布濃度が低いため、後述のゲートロール型よりは紙の乾燥に多くの熱量が必要である。しかも、マシン速度が速くなるにつれ、ポンド部で塗布液が飛び跳ね、いわゆる沸騰状になるボイリング現象が発生し、抄速アップ(1,000m/min.以上) が困難である。

なお、表面サイズ剤としては主に澱粉、ポリビニルアルコール(PVA)やポリアクリルアマイド(PAM)などが使われている。

■ゲートロール型…ゲートロールコーター(gate roll coater)
サイズプレスのポンド(含浸法)方式に対して転写方式が採用されるようになった。その典型がゲートロールコーターである。これは前記の高速化にともなうボイリング現象対応と塗布液濃度が高くできるため省エネの面から適用されるようになってきた。ゲートロール型は10〜20%くらいの高い濃度の液が塗布できるロール塗工装置のー種で、本体は6本のロール(片面3本)で構成され、塗液はロール表面で被膜を形成し、この被膜を紙に転写する形で紙の両面に同時塗工される
近年、印刷用紙や塗工原紙、新聞用紙など多くの品種に採用されるようになったもので、オンマシンコーターとして、上質紙などの非塗工紙に澱粉、PVAやPAMなどの表面サイズ剤を塗布する表面サイジングばかりでなく、顔料やラテックス、澱粉などを配合した塗料を塗布するコーターとして活用され微塗工紙分野にも適用されている。その塗布量は片面で 0.5〜10 g/u近くまでの広い範囲で塗工される。
また、サイズプレスに比べ、塗布液が高濃度のため、紙の中に浸透するよりも紙表面に塗工膜として残る。いわゆる転写塗工であり、そのため、ゲートロールコーターは微塗工紙製造等を含めて紙表面の改質を行いやすい。
一方、サイズプレスは低濃度でポンド方式のため塗布液が紙の中に浸透しやすく、紙の層内強度を上げやすい。
ゲートロールコーターでは、紙匹(ウェブ)と同速で回転するアプリケーターロール間で紙は面圧を受け、塗工されるが、塗布量は塗布液の濃度、速度、ニップ圧、各ロールの速度比、ロール硬度などによって決まる。また、塗布液はファウンテンロール(アウターゲートロール)とメタリングロール(インナーゲートロール)との間に供給され、そこでポ� ��ドを形成し、メタリング(計量)され、アプリケーターロールに転写される。そのためにボイリング現象がなく2本ロールサイズプレスより高速運転が可能である。

なお、高速でもボイリングの発生がない、ロール回転に対し反転するロッドでサイズ液を紙に転移させる転写方式であるロッドメタリングタイプがある。

ところでサイズ液塗布後は、さらに乾燥するためのドライヤーが必要で、サイズプレス前のドライヤーをメインドライヤー、サイズプレス後のをアフタードライヤーと呼ぶ。

(6)カレンダー
(光沢部)
(calender)
ドライヤーパートから出てきた紙は、表面が粗くラフな面をしている。この面を平滑でー様な厚さと光沢を付与するために、カレンダー(キャレンダー)装置が使用される。
表面をチル鋳鉄化したロールを数本上下に組合わせた構造をもち、紙はこのロール間を通り加圧処理を受ける。
最下段のボトムロール(キングロール)は大径でクラウン付きで、現在は可変クラウンロールが多い。なお、すぐ上のクイーンロールも通常クラウンが付けてある。また、紙の厚さを均一に仕上げるために、ロールの熱膨張を押さえる調整用の冷風吹出し装置もある。
(7)リールパート
(巻取枠替え部)
(reel)
カレンダーから出てきた紙の抄紙工程は、リールで巻き取られる。
(8)ワインダー(winder) さらにワインダーで巻き直しながら不良部分を取り除き、所定の幅と長さに巻き取って最終製品(上質紙などの非塗工紙巻取)として出荷するか、あるいは塗工(加工)・断裁のために塗工機・カッターなどの次工程へ送る。
なお、
上質紙などの非塗工紙はカッター(仕上工程)で所定寸法に平判断裁され、検品選別後、包装され出荷される。

  
3.塗工・加工工程

 「塗工・加工工程」は、一般に紙、プラスチックフィルム、布地などの素材の表面に他の物質を塗布する工程をいいます。紙の場合は、塗工原紙、塗布液(塗料)、塗工機・加工機の組み合わせとスーパーカレンダーやマットカレンダー等による艶出し仕上げにより、塗工紙(加工紙)を作ります。
 
塗工紙は、紙の表面に顔料と接着剤を主体にした塗料(コーティングカラー、ただ単にカラーという)を片面あるいは両面に塗工し、印刷適性を高め、高級感を持たせた紙であり、非塗工紙と比べて、その需要が増加しております。

 塗工の目的は、パルプ繊維が露出している原紙表面の凹凸をインキ受理性が良く、不透明な塗料を塗布、被覆して、均ーでかつ平滑性が高く印刷適性の優れた紙面を得ることです。したがって、紙に塗料をコーティングすることにより、平滑度、光沢度、白色度、不透明度、インキ受理性、表面強度などが向上し、すぐれた印刷効果が得られます。

 なお、塗料は、顔料(ピグメント)に分散剤を添加して水に分散し、これに接着剤および助剤を加えて調整した水性系です。塗料の組成は、塗工紙の諸性質に大きな影響を及ぼしますので、非常に重要であり、その原料の種類と配合については各社のノウハウになっております。その一般的な組成は、
  ・顔 料:100部(カオリン、炭酸カルシウムなど)
  ・接着剤:10〜20部(澱粉、ラテックスなど)
  ・助 剤:1〜5部(分散剤、消泡剤、染料など)

からなっており、他にが加わって重要な役割を果しております。塗料は原紙を被覆して平滑な塗工膜を形成し、インキを受理し、良好な印刷効果を発現し得るようになっていなければなりませんが、そのために、塗工機(コーター)に適合した塗工性・操業性と要求品質に合致した塗工品質が得られ、かつ、できるだけ経済性を加味して設計されております。

  3.1 塗工機(コーター)

 塗工設備の型式には、抄紙機と塗工機が直結しており、抄紙・塗工を一工程で行なうオンマシン方式と、抄紙機と切り離れており、いったん、抄紙した巻取を別工程の塗工機で塗工するオフマシン方式とがあります。
 ー般に、オンマシン方式は、品種の数が少なく、生産ロットが比較的大きな製品を製造するときに有利であり、一方、製品の種類が多い場合や、原紙マシンより高速運転を指向し、かつ品種の多様性・融通性を持たせたいときにはオフマシン方式が好適です。

 最近増加している薄塗りの微塗工紙ゲートロール、ビル� �レードコーターやショートドウェルブレード塗工機などによるオンマシン塗工方式が多い。

 塗工機は原紙に塗料の所定量を塗布、乾燥するところで、アンワインダー、コーターヘッド、ドライヤー、カレンダーおよびワインダーで構成されています。

 コーターヘッドは、原紙に塗料を、塗布(アプリケーション)、計量化(メタリング)、平滑化(スムージィング)を行なう機能を持つもので、その方法により、エアーナイフ、ブレードタイプ、ロールタイプおよびバータイプに大別されます


ジェームス公爵の痛み

 各コーターにはそれぞれ塗工量の制限、付与される塗工面の品質に長・短所がありますが、高速で塗布でき、塗工面の平滑性が最も優れていることから、現在はブレードタイプの塗工機が主流を占めております。また、単独で使うシングルコーティングがー般的ですが、より良い印刷適性をもつ塗工面を得るために、これらの塗工機を組合せて下塗り、上塗りで塗工するダブルコーティングを行なうことが多くなってきております。

 3.2 艶出し装置

 (1)スーパーカレンダー(super calender)[スーパーキャレンダー]

 塗工によって原紙の凹凸は被覆され、面はかなり平滑になりますが、ミクロの凹凸は残ります。この状態では−般の塗工紙に要求される平滑と光沢は得られません。そこで、紙面に光沢を与え、平滑にする目的で仕上げを行う必要があります
 このためにー般に用いられているのがスーパーカレンダーです。これは金属ロールと弾性ロールを多段(10〜16段)に積み重ねた装置で、紙はこの間を通りながら加熱、加圧されて、平滑で均一な厚さの高い光沢を持つ紙に仕上げられます。

 一般的な使用ロール段数と紙質は次の通りです。
   使用ロール段数    紙 質
     8〜12    一般印刷紙塗工紙
    10〜14    アート紙
    16〜多段   グラシン紙、コンデンサー紙

 金属ロールの表面温度は弾性ロールの耐熱度で抑えられ、最高90℃程度で、また加圧力は線圧で最高350kg/cm位(通常 200〜250kg/cm)です。圧力・温度・紙の水分が高いほど、また、加圧時間が長いほど(低速ほど)、高い光沢や平滑性が得られます。反面、緊度が高くなり紙厚は低下します。なお、スーパーカレンダーは塗工紙以外にもグラビア用紙やグラシン紙などにも使用されます。

 また、艶消し塗工紙であるマットコーテッド紙やダルコーテッド紙は、スーパーカレンダー処理は行なわないか、あるいは軽い処理に止めたり、特別なマット用のカレンダーで処理をします。

 (注)弾性ロール…綿繊維を圧縮して固めたものを研磨して作ったコットンロールが主体ですが、これ以外に羊毛や、最近では合成繊維も材質として使われています。

 (2)ソフトカレンダー(ソフトキャレンダー)

 紙は加圧によって厚さが減るというマイナス面があります。他方、紙の表面温度を上げると光沢が上がることから、弾性ロールの材質を工夫して温度を高め、ロールの本数と圧力を減らすことで紙厚を落とさずに平滑度や光沢を上げることができる「ソフトカレンダー」が開発されました。
 すなわち、スーパーカレンダーより高温処理をすることによって、少ない加圧段数で高い光沢と平滑性を得られるようにした装置です

 金属ロールと弾性ロールの1対の組み合わせで、これを1基ないし2基を直列に設置、高速運転可能として抄紙機や塗工機と直結したオンマシンで使えることが特長です。
 金属ロールの表面温度は、現在のところ最高温度230℃の例があります。弾性ロールの被覆材にはエポキシ樹脂などが使用されています。
 得られる光沢はスーパーカレンダー処理に比べてやや低いが、厚さを減らさずに平滑で光沢のある紙や平滑で嵩のある紙を得る目的で、新聞用紙などの非塗工紙でマシンカレンダーの代わりに、また、塗工紙などに適用されるスーパーカレンダーの代わりに、近年よく用いられるようになってきました。

 4 仕上工程

 抄紙機ないし塗工機(加工機)で巻き取られた親巻取紙(ペアレントロールやミルロールともいいます)ないし分割巻取は、何本か組にしてカッターに掛けられ、まずスリッターで縦(マシン流れ方向)に切り、ついでターニングナイフで横(巾方向)に断裁し規定の寸法の平判(枚葉紙)製品に仕上げられます。
 また、さらに小さく切る場合にはギロチン断裁機により断裁されます。
 なお、
巻取紙は、リワインダーで規定寸法幅に両耳部をスリットし、所定の長さにして所要の巻取製品仕上げられます。

 これらはいずれも、各工程の品質検査、検紙を経て、顧客が満足して使用できるよう包装し、ラベル表示されて出荷されます

 6. 紙の特徴

 次に紙の主な基本特性をまとめて示しますが、紙を印刷ないし加工するときや用途拡大を図っていく場合には、紙の持っている基本的な特性について、あらかじめよく理解しておく必要があります。

 ところで、紙の持つ多くの品質特性が、原料、製造方法、技術力などの制約で両立しないことがあります。例えば、同一品種で平滑度(表面の滑らかさ)と紙の厚さとの関係で、平滑度が良く、かつ紙厚もほしいとの要求に対して、前者は密度が高く引き締まった紙の傾向になるのに対し、後者の紙は逆に密度が低くふわっとした特長を持たせなければならないというように、両者は相反している面があり、両立しにくいわけです。このため、要求を理解した上で、どちらを優先するのか、選択をする必要がありますので、要求者と作る側とはよく話し合って品質仕様を決めていくことが重要となります。
 このように、紙の持つ諸特性のうち、用途面・機能面を考慮してプラス面は活� �し、マイナス面は改善し、あるいは補いながら、使用していくことが大切です。

  6.1 主な基本特性

 ・親水性で、かつ親油性であること…水または湿度に敏感(湿度変化、伸縮、カール、紙くせなど) 、また油性インキによる印刷が可能
 ・異方性(方向性)・両面性を持つこと…紙の目(縦・横)、表裏差 ←それぞれクリックをどうぞ
 ・多孔性であること…液体などの吸収、浸透が可能
 ・圧縮性・クッション性・弾力性を持つこと
 ・柔軟性を持つこと…剛度(こわさ、腰、手肉)
 ・透過・通気性(光、気体など)であること
 ・保温性であること…伝熱性小
 ・表面は酸性ないし中性であること…酸性紙、中性紙
 ・紙力に限界があること…引張り、耐折、破裂、引き裂き、伸び、表面強度など
 ・耐久性に限界(劣化性)があること…強度劣化、退色性など
 ・可燃性であること

 ・折り曲げ可能で軽くて平面・平滑であること
 ・ある程度の厚さを持つが薄いこと
 ・白くて不透� ��性でありかつ、染色しやすいこと
 ・加工しやすく、張り合わせも容易
 ・無害で再生が容易なこと などです。

 なお、これらの特徴とは別に比較的安く、入手しやすく、手軽に持ち運びしやすく、記録しやすいことなども紙の持つ大きな特長であり利点といえます[(参照)紙の機能と用途]

  6.2 紙の基本特性の決定要因

 紙の基本特性や物性は、使用する原料・原料の処理(叩解など)・薬品、抄紙・塗工・加工・仕上げ条件や温度・湿度など使用、保管される環境条件などによって決まり、変化します。

 ここでは原料である植物繊維と環境条件について触れます。

   (1)紙と植物繊維、その主成分と特徴

 紙を作るということは、自然界で生合成(光合成)を経て形成された植物体に、薬品を添加し加温して煮たりすることにより繊維を取り出し、平面で薄状のシートにするということです。
 
紙はセルロース繊維を基本として構成されています。そのために長所もあり欠点もあります。紙は、木材などの植物繊維を原料としておりますが、植物体から繊維を分離する工程をパルプ化といい、その製品がパルプで紙の原料となります。
 そしてその主成分はセルロース、ペントザンなどのヘミセルロースやリグニンで、その他にマンナン、樹脂やカルシウム・シリカなどの無機成分が少量含まれています

主な繊維原料の化学組成・形態
繊維原料 化学組成(%) 形   態
セルロース ヘミセルロース リグニン 灰 分 平均長(mm) 平均幅(μm) 
針葉樹 47〜60 8〜12 20〜35 0.1〜1 2〜4.5 20〜70
広葉樹 50〜66 20〜24 17〜28 0.1〜2 0.8〜1.8 10〜50
(白皮) 60〜65 23 3〜8 4〜6 6〜20 14〜31
ケナフ 53 22 18 2 2〜6 14〜33

[注]現在の紙は、ほとんどが木材を原料にしておりますが、その木材はすべてのセルロース原料のなかでいちばん大量にまた広く使われております。
 木材の50〜55%はセルロースで、10〜20%くらいのセルロース以外のヘミセルロースと多糖類そして20〜30%のリグニンからできています。

 繊維細胞の主成分であるセルロース[繊維素(C6105)n・・・セルロースの構造式←クリックをどうぞ]は、数千個(500〜6000個) ものグルコース(単糖類)[ブドウ糖(C6126)]が連結(重合)した長い鎖状の高分子(ポリマー)で、もとは二酸化炭素(炭酸ガスCO2)と水(H2O)とが、葉緑素の触媒作用で太陽光線のエネルギーを得て光合成された化合物です。

 いろいろな長さ(重合度)のセルロース分子は、集合してミクロフィブリル[糸状の形態をしているセルロース分子の集合単位]を形成し、さらにこれが他のヘミセルロースやリグニンなどの化合物と複雑に絡み合って繊維細胞を構成しています。
 長い高分子が集合するとき、整然とならんだ結晶領域と、不規則な非結晶領域(無定形部分)とができます。ブドウ糖が水によく溶けるのに対し、セルロースは、強固な結晶構造 を持っているため、水の無定型部分への侵入によって繊維が膨潤することはあっても、水に溶けることはありません。なお、重合度および結晶領域の割合(結晶化度といいます)が高いほど、繊維は丈夫となります。

 また、紙が形を保ち、強さを保持しているのは、繊維の絡み合いによる機械的な力だけでなく、セルロース分子間に水素結合という化学力が働いて繊維同士が引き合っているからです。
 この場合の水素結合は、分子内の多数の親水性の水酸基(ヒドロキシル基、OH基)の酸素原子が余分の電子を持って、他から水素原子核を引き付けるために起きます。近くにある水酸基間で、相互に水素を介した酸素の結合(水素結合 −O−H…O<)ができます。その結合力は通常の化学結合(共有結合)よりは弱いのですが、長い高分子が無数の水素結合を行うと全体では強い力となります。

 紙になるときに、この水酸基はシートを形成して強度を発現させるという重要な役目を果しています。すなわち、紙製造の段階で、紙料から脱水の過程でセルロースが接近しますと水の表面張力で繊維同士が接近し、さらに水の蒸発にしたがってますます繊維が引き寄せられます。
 例えば、ドライヤーなどで乾燥しますと、次第に水が蒸発して繊維同士が接近してくるわけですが、接近しますと水酸基と水酸基の間で、水素結合と呼ばれる結合が発生し、これが紙の強度を高めるわけです。このように接着剤を使わなくてもセルロースの水酸基のために自己接着性が発生するというわけです。そして
乾燥を受けると水和していたセルロースから水が除かれて繊維本来の柔軟な硬さにもどり、弾性を持った� ��の組織ができ上がります。これが製紙の原理です。

 ところで、水分子(H2O)自身も水素結合しやすく、セルロース中の親水性の基である水酸基ともすぐに結びつきます(水和といいます)。つまりセルロースの親水性は本質的なもので、吸湿性あるいは吸水性は紙の宿命であるわけです。

 なお、上記のように、紙は繊維と繊維が絡み合い、結合して層を成していますが、絡み合った繊維の間には微細な間隙があり、多孔質構造となっています。その構造が紙独特の風合いをつくり出すとともに、親水性がゆえに水を吸収して膨張し、柔軟性を示すようになります。また、紙にペンによる筆記や油性のインキで印刷ができるのは、この多孔質構造による毛細管現象によって水やインキをよく吸収し、吸着されるとともにセルロ ース分子の中にインキと親和性の強い親油性の基である>CHー(メチリジン基)があるからです。

 この親水性で、かつ親油性で、さらに多孔質構造を持つことが紙の最大の特性であり特徴であり金属、陶磁器、ガラス、プラスチックフィルムなどの素材にない性質で、このことが水を使い、油性の印刷インキで紙に印刷ができ、しかもインキが取れないように定着する理由となるわけです。

 また、紙は厚さ方向に空気(気体)が出入りすることができます。いわゆる通気性を持ちますが、これもこうした多孔質構造に起因した紙の特性でもあります。

 そしてもうひとつ、紙において重要な役割を果たしているものがヘミセルロースです。ヘミセルロースは、グルコースの他に類似の各種の糖類が結合した複雑な構造の多糖類(高分子の炭水化物、重合度50〜300)で、植物の細胞壁を構成しています。
 成分糖の種類や数、その結合の仕方によっていろいろな種類があり、セルロースとは水素結合などで密接に混合して植物細胞を形成しており、化学的にはセルロースより反応性に富み、水にも溶けやすく、溶けると粘い液となります。そのためパルプ化や叩解などの際に、ヘミセルロースを多く含む繊維は、フィブリル化しやすく、フィブリル化により遊離の水酸基を多く出すため抄紙のときに水和しやすく、膨潤し、よく分散して均一に絡みます。このためできた紙層を乾かすと膠着性を発揮して紙を強くします。

 一方、リグニンは、セルロースやへミセルロースが多糖類であるのとは異なり、芳香族核[構成単位(単量体)はフェニルプロパン]が� �体的に結合した非結晶性の不規則な高分子物質です。
 リグニンは、木材、竹、藁、ケナフ(紅麻)などに多くて、和紙の原料となる楮、三椏などは比較的少なく、植物内で細胞同志を接着して植物体を強固にます。親水性が小さく化学的には抵抗力が強く、パルプ化に際しては高温度でスルホン化されたりアルカリで分解され溶解し、抽出されます。
 また、リグニンは着色性があるので、紙にとって品質的に好ましくありません。すなわち、紙を退色させます。リグニンは酸化されやすく、光(紫外線)によってさらに加速される性質を持っていますから、リグニンを多く含んだパルプを多く使用した紙ほど変色、劣化しやすくなります。
 リグニンの含有率は針葉樹材で30%内外、広葉樹材で20%内外です。パルプのなかでも、化学パルプ(CP)はパルプ生成の過程でリグニンが取り除かれますが、機械パルプ(MP)はほぼそのまま残ります。したがって、紙の退色や劣化の度合いは、化学パルプを使用した上級紙より、リグニンを多く含んだ機械パルプを配合した中・下級紙・新聞用紙のほうが大きくなるわけです。
     


 [補足] 和紙について


 和紙の靭皮繊維は、木材パルプの繊維と比べて長いこと、および着色性があり、紙には益のないリグニンという物質が少ないことや、製紙にむしろ有利に作用するヘミセルロースを多く含むという特徴があります。

 洋紙の製造に使われる木材パルプの場合には、この樹木内でセルロースの接着剤の役目をしているリグニンを化学薬品で溶かし出し、セルロースを主成分とする木材パルプを作るのですが、和紙の靭皮繊維の場合にはリグニンがもともと少ないので、リグニンを抽出するような化学的な強い条件を与えなくてもセルロースを取り出せます。すなわち、あまり繊維を劣化させるような強い化学的作用を与えないので、靭皮繊維から取り出した場合の方 が木材パルプの場合よりも力学的に強いということがいえます。

 しかも和紙の場合、緩和な薬品処理の上、靭皮繊維は緩慢な手作業でパルプ化されますで、繊維の損傷は少なく、抄造直前の工程の叩解も手打ちのために繊維の切断(セルロース分子の重合度の低下)もほとんどありません。ここにも和紙が強く長持ちする特性が生まれる理由があるわけです。

 セルロースには水酸基(−ΟH)がいくつかあり、これがあるために非常に水に親しく、和紙も水を吸収するという特性をもつわけです。そのため洋紙の場合には、ペンなどによるインク筆記による滲みを防ぐために、紙の表面に繊維の水酸基が露出しないように、表面処理をして水をはじくような処理をしたり、紙の内部に水を受けつけにく� ��するように薬品を添加しますが、和紙の場合には逆に、この水酸基を活用して水墨で書いたりするときにうまく墨が滲むように調節しています。すなわち和紙は水を吸収しやすいという、もともと紙の持つ性質を活かしているわけです。
(参照)
和紙の特徴


  (2) 環境条件

 紙の強さなどの物理的性質は、含有水分や外気湿度によって大きく変化します。また、紙の水分は置かれている環境の温・湿度条件により、吸収したり、放湿したりしますので、紙の物性値を測定したり、その特性値を比較する場合、一定の条件下で試験しなければなりません。
 このため、わが国の用紙の前処置および試験のための標準条件は、国際的な標準であるISO 規格(国際規格)に準じた温度23±1℃、湿度50±2%RH(4時間以上調湿)と規定(JIS P 8111)されており、1998年から適用されています。これはわが国の湿度を考えて設定し、それまて長く使われてきた標準条件、温度20±2℃、湿度65±2%RH(過渡措置として2000年3月31日まで適用可能)から国際化に合わせ変更されたものです。

[注]RH…Relative Humidityの略。相対湿度、関係湿度ともいいます[ある温度において気体中に含まれる水蒸気の量(飽和水蒸気量)は一定です。この飽和量に対して、実際に含まれている水蒸気量の比をパーセントで表示するのが相対湿度です]。

 6. 紙の特徴 (U)

 紙の基本特性のうち、紙を印刷ないし加工するときに、特に重要な特徴は水または湿度に敏感なこと、および紙の縦横、表裏を示す異方性(方向性)と両面性を持つことです。

 このうち紙の縦横、表裏を示す異方性と両面性については、FAQのところをご覧ください。ここではもうひとつの重要な基本特性である水または湿度に敏感なことについて説明します。

  6.3 紙と湿度

 多くの紙は、機械で抄造され薄くて平面状であり、植物繊維を主原料として作られております。そのパルプ単繊維自体、水分を保有し、親水性で水と新和性が大きいため水分変化に敏感です。したがって、それを原料にしている紙も、水分すなわち、湿度変化に敏感となります。これは紙の最も重要な特性ですので、少し詳しく触れ、理解を深めます。

  (1) 平衡水分

 1枚の紙を湿度の異なる環境に移すと紙の中の水分は直ちに変化し始めます。湿度が高ければ紙は水分(湿気)を吸収し、低くなれば放出し、ごく短時間にその変化は完了します
 紙の水分がこれ以上変化しない状態(飽和状態)になることを水分が平衡するといい、このときの水分値を平衡水分といいます。
 紙はそれぞれ、湿度に応じた平衡水分を持っていますが、親水性に富む紙ほど、ある湿度での平衡水分は高く、親水性が乏しいほど低くなります。なお、紙の脱吸湿速度は、紙の多孔性に影響され一般的には粗い紙のほうが速くなります。

 一方、積み重なった紙(積層紙)は外気の湿度と平衡するのは周辺のみで、外層までには時間が掛かり、内部はほとんど変化しません。

 また、紙は高湿度(例えば95%)の状態からある湿度(例えば65%)に下げたときの紙の含有水分は、低湿度(例えば 5%)からその湿度(例えば65%)に上げたときの含有水分とは異なり、高い状態で平衡になります。すなわち、湿度の下降過程と上昇過程とでは、同一湿度に対する平衡水分は異なります。これを紙のヒステリシス現象といい、また、描くカーブをヒステリシスカーブといいます。
 このため、強制的に湿度を変え、高・低の湿度状態を繰り返すと、紙の水分変化幅は小さくなり、一定の値に近づくとともに紙の伸縮程度(伸縮率)も小さくなっていきます。このように、紙は時間を掛けて吸・脱湿を繰り返すと含有水分や伸縮程度が安定した状態になります。これをエージング効果といいます。


 なお、湿度は温度の影響を受けます。特に、密封状態にある積層紙を温度変化が大きい環境(倉庫)に置いた場合、外気温度が下がっていけば、相対湿度 100%を超え、ついには外包装が濡れ、いわゆる「結露」を起こし、トラブルとなることがあります。防止策として、保管時などに倉庫壁から10〜15cm以上離して製品を置くなどの注意が必要です。


 (2)湿度変化と紙強度


 紙の強度(紙力)は、繊維自体の強さと繊維の絡み合い(水素結合含む)によって生じます。長繊維である楮、三椏、亜麻、マニラ麻などはいずれも大きな強度を与え、クラフトパルプ(KP)もまた強度の大きい紙をつくります。亜硫酸パルプ(SP)、木綿パルプなどは強度がやや劣り、藁、エスパルト、葦などは繊維が短く強度が小さく、また、砕木パルプも弱い。
 ところで、水分の増減は繊維間結合および組織の剛直性、柔軟性という両面で紙の強度に影響します。水分が低くなると紙は剛直性を増すと同時に脆くなります。したがって、繊維または組織は折れやすくなり、強度は低下します。逆に、水分が多くなると繊維組織に緩みを生じ、繊維間結合が弱くなり紙の引張り強さや破裂強さ等の強度は低下しますが、柔軟性が増すため、耐折強さ、引裂き強さ、伸びなどは向上します。

 なお、紙に関わる力学的作用としては、

  ・引張る力に対する抵抗性…引張り強さ
  ・紙面に垂直な圧力をかけたときにその紙を破裂させるのに要する力…破裂強さ
  ・紙を引裂くときの抵抗性(仕事量)…引裂き強さ
  ・折り曲げに対する抵抗性…耐折強さ
  ・たわみを与えたときの抵抗性…こわさ
  ・紙の厚さ方向の変形しやすさ…圧縮強さなどがあり、それぞれに評価法があります。

 そして、これらの値は紙の坪量(質量)で変化しますので比較値として、坪量で除した裂断長、比破裂強さ(または力比)、比引裂き強さ、比圧縮強さなどで示すことが多々あります。

 また、上記のように、紙の含水量は外気の温度・湿度に左右され、紙の強度や伸びは、特に湿度によって変化が大きいため、紙の試験は一定(標準)条件に保たれた恒温恒湿室内で、一定時間前処理し、試験片の水分が平衡状態に達してから行わなければなりません。JIS では、この標準条件として温度 23±1℃、湿度 50±2%RHと規定しています。

  (3) 湿度変化と紙の伸縮


 さらに重要なことは、水分の増減により植物繊維は伸縮することです。繊維は吸湿および脱湿によってそれぞれ膨張ないしは収縮し、その程度は単繊維の横方向[直径方向(胴面方向)]において著しく、縦方向[長さ方向(軸方向)]では小さい。比率で示すと単繊維の横方向の伸縮は、縦方向のおよそ30倍以上になります。すなわち、相対湿度を 0から 100%に変化させると、1本1本のパルプ繊維は吸湿して長さ方向には 1%以下しか伸びませんが、直径方向には30%くらい太り、脱湿(乾燥)によって反対に縮みます。


 紙にした場合、湿度変化による紙全体の伸縮は、個々の単繊維の伸縮が繊維間結合を通じて全面に波及することによって起こります。抄紙時に繊維は流れ方向に配列する傾向があるため、マシン流れ方向(縦方向)よりも直角方向(横方向)のほうが湿度変化による伸縮が大きくなるわけです。もし繊維が完全に流れ目の方向に配列していれば、紙の縦横の伸縮比は単繊維の場合と同じ 1:30程度になるのでしょうが、実際には、繊維は目の方向に平行に比較的多く並んでいる程度で、あらゆる方向に配列しているため、紙の場合は、単繊維のように大きくはありません。その比は紙の種類、繊維配向の程度などによって異なりますが、一般的に 1:2〜3(紙の種類によっては5倍)くらいになります。


 なお、湿度変化による伸縮の少ない紙を寸法安定性の良い紙[(注)断裁精度のことではありません]といいます。すなわち、寸法安定性とは、水分(湿度)変化に伴う紙の寸法変化の程度をいい、試験法として装置内を種々の相対湿度にし、試験片の水分を変化させ、基準湿度時の原寸に対する伸縮量を測定し伸縮率%(湿度伸縮率)で表す方法があります。その他に、紙を水中に一定時間浸漬して、その伸びの程度をみることがありますが、これは浸水(水中)伸度と呼ばれ、繊維が完全に湿潤したときの伸びを表しています。紙の浸水伸度は、一般的に縦方向 0.1〜 0.5%、横方向 2〜 3%程度ですが、紙によっては、もっと大きく縦方向に 1〜2%、横方向に 3〜5%程度も伸びるものもあります。


  (4) 湿度変化と紙くせ

 紙は湿度に敏感なため、その変化に応じさまざまな挙動がみられます。その中でも、代表的なトラブルである紙くせ不良として「波打ち」、「おちょこ」および「カール」があります。

  ■波打ちとおちょこ

 積層紙の周囲の相対湿度が変化すると、紙の周辺が吸湿あるいは脱湿するので周辺部分が局部的に伸び、ないし縮みが起こります。これが紙くせトラブルの主体を占める「波打ち」や「おちょこ」であり、印刷時に見当狂いあるいは印刷しわなどの原因となります。

 波打ち(ウェイビィエッジ、Wavy Edge)は紙の端部が大気中の水分を吸って部分的に伸び、波状になるもので、紙が大気などの周囲から吸湿することによって発生する現象で、高湿環境下で、紙が低水分(低紙間湿度)状態のときに発生しやすくなります。それを印刷すると紙の中央部からくわえ尻部に掛けてしわが入りやすくなります
(注)
枚葉紙に印刷の際、印刷機のくわえ爪(グリッパー) によって、紙の端をくわえて印刷部に持っていきますが、くわえられる側をくわえ端ないし単にくわえといい、その反対側をくわえ尻といいます。

 一方、おちょこ(タイトエッジ、Tight Edge)は波打ちとは逆の条件下で発生します。すなわち、紙周囲から外気中に水分を放出して紙の隅がせり上がり、ちょこ(盃)状のような形になる現象で、紙からの放湿(脱湿)が原因で、低湿環境下の高紙間湿度状態で発生しやすくなります
 印刷では紙の中央部にしわが入りやすが、このように波打ちとおちょこでは、印刷しわの入る場所が異なりますので、欠陥サンプルを見て、いずれの現象か判別することができます。

  ■カール

 カールとは紙が湾曲すること。すなわち、紙が一方向に丸まる状態を指します。湿度変化、機械的応力などによって起こりますが、カールは水分の吸収・脱湿による紙の伸縮に起因する「構造カール・水分カール」と巻取の長期保存等による「巻ぐせカール(巻きカール)」とに大別されます。

 構造カールは、水分カールともいい、紙のワイヤー面またはフェルト面のいずれかへカールする現象で、紙の表裏差(構造差、水分差)による伸縮の度合が異なるために生ずるものです。したがって、湿度変化によって紙が伸縮しても、オモテ、ウラとも同じ程度伸縮する場合にはカールは起こりません。

 なお、表裏のどちら側にカールをするかは、「伸びの小さい側」ないし「縮みの大きい側」にカールをするという基本原則があります。しかもその程度は、表裏の伸びまたは縮みの差が大きいほど大きくなります。
 構造カールの場合、カールの軸は一般的にマシン流れ目の方向(MD)ですが、場合によっては流れ目に直角な方向(CMD) のこともあります。

 カール対策(表裏差減少対策)として、ドライヤー乾燥条件を修正することによって表裏の水分差の是正や片面塗工(加工)品の場合などには、逆面に水または水系のものを塗布することなどが行われます。

 ところで、カールは紙の表裏差以外に後加工における貼合物質、塗工物質が温度変化、湿度変化によって伸縮した場合や加工条件(例えば張力の掛け方など)によっても発生することがあります。このときには、後加工条件や保管環境条件などを把握し、対応することが必要となります。


 また、巻きカールは、紙シートが巻取コア(紙管)の回りに癖がつくほど固く、長期間巻きつけられたために発生することが多く、カールの軸は常にマシン流れ目に直角なクロスマシン方向(CMD) で巻取の内側(裏面側)に起こるカールです。こわさ(剛度)の大きい厚い紙ほど生じやすく、巻芯に近いほどその程度は大きく、湿度には直接関係なく上記のように物理的な要因で発生します。このようなカールは、シートデカーラー等を設置し機械的に紙をしごくことによって改善されます。また、巻取状態での保管を短縮することや、コアの径を大きくすることなども効果があります。

 これらの紙くせ不良によって、印刷・加工時などにトラブルを引き起こしやすいのですが、対策として、まず、紙の含有水分(紙間湿度)を使用時の環境湿度に合わせておくことが重要です。
 大気の湿度は、季節・天候・時間・場所・風向きなどによって大きく異なりますが、わが国では、一般的に冬は乾燥期となり湿度が低く、逆に夏の梅雨期は高く、地域により冬の乾燥期には湿度が20〜40%に、梅雨期には70〜90%になることがあり、年間での湿度差が大きく動きます。しかし、全体的に年間の平均湿度は50〜65%にあるため紙の含有水分は、通常、年間を通じてこの範囲(一般に水分 5〜7%、紙間湿度55〜65%RH)に入るようにコントロールされ、吸放湿しないように防湿包装し出荷されております。ただ湿度の下がる冬場の乾燥期に限って、対策として紙の水分を通常よりは(0.5〜1%くらい)低く設定して出荷されるケースもあります。

 紙はこのように管理され出荷されていますが、さらに大切なことは実際に保管され、使用される環境です。紙の包装を開封し使用する場合は、二重扉などを設け外気と直接的な接触を避けた室内で行うとか、印刷室(できればギロチン断裁室も)には空調装置を入れ湿度・温度管理を実施することが望ましい。しかし、もし調湿されていない場所や、あるいは夜間などで調湿装置を停止した場所に、包装紙を解いた裸の紙(印刷紙含む)を置く場合には、プラスチックフィルムやヤレ紙などを防湿カバーとして活用し、一時的に積層紙を覆うだけでも効果があります。
 なお、場合によっては、� ��用前に用紙をシーズニング(調湿またはコンディショニングともいい、自然調湿と強制調湿とがあります)することも必要なことです。


 紙は温度より湿度の影響を大きく受けますから、特に湿度対策が重要ですが、湿度変化・変動による紙くせトラブルは多い。最近は調湿した印刷所や加工所が増えており、環境も改善されてきていますがまだ完全ではありません。地域差が大きく、変化しやすい気象条件下にあるわが国では、今後とも湿度・温度問題は、配慮しなければならない重要な課題です。


[付記]用語解説


用 語 解   説
絶対湿度  一定容積中1kgの空気中に含まれる水蒸気の絶対量でグラムで示す。AH(Absolute Humidity)で表す
相対湿度  ある温度において気体中に含まれる水蒸気の量(飽和水蒸気量)は一定である。この飽和量に対して、実際に含まれている水蒸気量の比をパーセントで表示する。RH(Relative Humidity)で表す。関係湿度ともいう。
 つまり、相対湿度100%とはその温度で存在しうる最高の水蒸気の量(飽和水蒸気量)に達している状態である。それ以上に水蒸気が増すと「結露」してしまう。また、例えば、相対湿度50%とはその温度で存在しうる飽和水蒸気量の50%に相当する水蒸気量を含んでいることを表す
紙間湿度  その紙の水分と平衡している湿度で、積層シート間の湿度をいう。紙の紙間湿度を測定するには挿入型(サーベル型)の湿度計を用いる
含有水分  紙の保有する水分の大小は、紙間湿度の大小となり、紙の腰(こわさ・剛度)、伸縮(紙くせ)、折割れなどに影響する重要な因子である。物体中に含まれている水分量で、周囲の外気(空気)の相対湿度によって変化する。含有水分量と物体の質量の割合(質量比)を含有水分率という。
 測定は試料およそ50g を質量既知の容器に入れ、秤量後、105±2℃に調整した恒温乾燥器で30分〜1時間以上、恒量に達するまで乾燥したときの減量を求め、もとの風乾試料の質量(Air Dry、AD)に対する百分率(%)で表す…JIS P 8127
(参考)
用紙の前処置および試験のための標準条件
 紙の強さなどの物理的性質は、含有水分や外気湿度によって大きく変化する。また、紙の水分は置かれている環境の温・湿度条件により、吸収したり、放湿したりするので、紙の物性値を測定したり、その特性値を比較する場合、一定の条件下で試験しなければならない。このため、わが国では国際的な標準であるISO 規格(国際規格)に準じた温度23± 1℃、湿度50± 2%RH( 4時間以上調湿)と規定(JIS P 8111)されており、1998年から適用されている。
 これは従来の標準条件、温度20± 2℃、湿度65± 2%RH(過渡措置として2000年 3月31日まで適用可能)から国際化に合わせ変更されたものである

 



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